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作成日:2019年10月28日

夏の暑さが去り、少しさびしいけれど、心が動きだすのを感じてわくわくするような秋の日。たまには一人の時間をたのしんでみませんか。本格的なオーディオ設備と時代を経た唯一無二の空間でクラシック音楽を堪能できる渋谷の「名曲喫茶ライオン」と、都会の森のような空間で静かに読書ができる高円寺の「アール座読書館」をご紹介します。

重厚なクラシック音楽に身をゆだねる ── 名曲喫茶ライオン

創業は1926年、大正15年という名曲喫茶ライオン。渋谷の道玄坂を上った百軒店商店街にあり、重厚感のある佇まいが目を引きます。百軒店は、東京五輪が開催された1964年頃には劇場や映画館、バーなどが建ち並ぶ、渋谷の中心街としてにぎわっていたのだとか。そんな街の歴史を静かに刻む店のドアを開けると、淡いブルーの照明が灯るほの暗い店内に、装飾が施された柱や漆喰の壁、木製のテーブルや椅子が配置され、この場所で時代を経たものならではの調和と味わいを感じさせます。そして、座席はすべて正面にあるスピーカーに向けられていて、はじめて訪れた人もすぐにここが普通の喫茶店と違うことに気づきます。

2階まで吹き抜けになった天井に届くほどの巨大なスピーカーは、創業者の山寺弥之助さんがオーダーメイドで作ったもの。海外のオーディオ専門誌が取材にくるほどのこだわりぶりで、当時はクラシックファンの若者たちが足繁く通ったそう。「学生服を着た大学生たちが並んで座っているから、ここで出席をとったほうが早いんじゃない、なんて言っていたの。自分の聴きたいレコードを風呂敷に入れて抱えてくる学生もいてね」初代の義妹にあたる3代目店主の石原圭子さんの話に、当時の熱気が目に浮かぶようです。

店内には1階席と、2人掛けの「アベック席」が並ぶ2階席がありますが、音を心ゆくまで楽しみたいなら、スタッフに一声かけて、ぜひ2階の前列へ。目の前のスピーカーから立ち上る荘厳なオーケストラやピアノの響きに驚かされるはず。たとえば、モーツァルトの「ピアノ協奏曲第23番第2楽章」が流れ出すと、短調の哀愁漂う音色が空間にゆったりと満ちていきます。日本画の大家である東山魁夷が代表作「緑響く」の着想を得たと言われるこの曲、ピアノの独奏からは湖を軽やかに横切る白馬が、フルートやファゴットが加わった重厚感のあるオーケストラからは、緑の深い森が目の前に迫るのを感じさせます。

店内には5000枚のヴィンテージレコードが所蔵されているほか、好きなレコードやCDを持ち込んでリクエストするのもよし、毎日15時と19時におすすめの曲をかける定時コンサートに足を運ぶのもよし。渋谷の喧騒とは別空間のこの店に身を沈め、2日間煮出して淹れたトルココーヒーや懐かしいクリームソーダを傍らに音楽に没頭する、そんな幸福なひとときを過ごしてください。

読書や手紙を書きながら一人の時間をたのしむ ── アール座読書館

「一人で静かに過ごしたいと思ったとき、自分が思い描く理想の場所が見つからなかった」という店主の渡辺太紀さん。ならば自分で作ろうと思い、一からでつくり上げたのが「私語厳禁」というちょっと変わったルールのある「アール座読書館」です。高円寺のにぎやかなアーケードを抜け、路地に入ったところにある古いビルの2階という立地にも期待感を膨らませながら、階段を上った先にあるのは、渡辺さんが1点ずつ集めたアンティーク家具と自由に葉を伸ばしたグリーン、大きな水槽、そして書棚が並ぶカフェ。「森の中で読書しているような空間をつくりたかった」という言葉どおり、木材と植物が主役の店内は、古いものならではの温かみとほどよい雑然さが落ち着きを与えてくれます。

音楽のボリュームはぎりぎりまで絞り、代わりに水槽の水音や、秋には虫の音色が聴こえる静かな店内では、読書をする人、書きものをする人、編み物をする人、何もしない人と、思い思いに一人の時間をたのしむ人たちが訪れます。それぞれにお気に入りの場所があり、水槽を眺められる特等席に座る人もいれば、窓際の机が定位置という人もいます。

こちらには食事メニューはなく、静かな時間を過ごすのにぴったりの手作りのかわいらしいスイーツと、丁寧に淹れたコーヒーがいただけます。さらにこの店ならではのメニューとして、ドリンク付きの「お手紙セット」なんていうものも。ガラスのショーケースの中からお好みの便せんと封筒を選び、クラシックな羽ペンを借りて大切な人に手紙を書くことができるメニューです。中世ヨーロッパなどで使われていた蝋で封をするシーリングワックスまで揃えるこだわりがこの店らしさ。とっておきの場所でとっておきの道具を使い、誰に何を書こうか、考えるだけでもわくわくしてきます。そして、書き上げた手紙は店の入口にあるアンティークのポストへ。幸福な手紙の受け取り手のもとに届きます。

「こんな場所が近所にあれば」という声はお店のお客さんの間にも多いそうですが、わざわざ訪れて非日常を楽しむ、そんな時間の過ごし方もまた魅力的です。たくさんの店がある東京にも、ここと同じような場所はみつかりませんから、ぜひ足を延ばして、都会の森の扉を開けてみてください。

名曲喫茶ライオン

住所 東京都渋谷区道玄坂2-19-13
営業時間 11:00~22:30(LO22:20)
定休日 無休(正月、お盆休みあり)
アクセス JR線、銀座線、半蔵門線、副都心線、井の頭線、東横線、田園都市線「渋谷」駅より徒歩3分
その他 営業時間・定休日・料金等の最新情報については公式ウェブサイトでご確認ください。

アール座読書館

住所 東京都杉並区高円寺南3-57-6 2F
営業時間 平日13:30~22:30、土曜・日曜・祝日12:00~22:30
定休日 月曜(祝日の場合は翌火曜休)
アクセス JR線「高円寺」駅南口より徒歩5分
その他 営業時間・定休日・料金等の最新情報については公式ウェブサイトでご確認ください。
URL アール座読書館

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