私の東京ガイド
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作成日:2024年7月22日
東京には、江戸時代から職人の技術と情熱によって受け継がれた伝統工芸が現代に息づいています。今回は、中でも「夏の涼」を感じられる伝統工芸品と、その体験工房を紹介します。
江戸時代に青梅街道の宿場町として栄えた青梅。古くから織物のまちとして知られ、江戸後期の文化文政時代には、「青梅嶋」が一世を風靡します。ぜいたくが禁じられ、庶民は絹をまとうことが許されなかった時代に、経糸(たていと)に絹糸と綿糸を、緯糸(よこいと)に綿糸を組み合わせた青梅嶋は、綿を基本としつつも絹の風合いを実現し、最先端のおしゃれ着として全国に流通。しかし、明治に入ると代用品が出回り途絶えてしまいます。
幻となっていた青梅嶋ですが、青梅で大正時代から染物業を営む「村田染工」3代目社長の村田博さんが復元に成功し、現在は藍染工房「壺草苑」で反物や衣類を購入することができます。工房では、青梅嶋に用いられた伝統的な藍染の体験も可能。爽やかで涼しげな藍染のアイテムは、夏の贈り物やお土産に喜ばれること間違いなしです。
村田さんが青梅嶋を復元しようと思ったきっかけは、現在は青梅市郷土博物館に文化財として保管されている、唯一現存する当時の青梅嶋に出会ったこと。平成元年に壺草苑を開き、現在は工房長を務める弟の村田徳行さんとともに試行錯誤しながら、10年がかりで実現にこぎつけました。
復元する際にこだわったのは、機械では紡ぐことができないほど細い綿糸の再現と手織りの技法、そして江戸時代に確立され、現在では灰汁発酵建て(あくはっこうだて)と呼ばれる藍染です。天然藍は綿を染めやすいだけでなく、藍染をすることで糸が丈夫になり、夏涼しく、冬暖かい素材になります。また、天然藍には抗菌、防虫効果があるとされ、「服薬」という言葉があるように、江戸時代の人々は元来、身を守るための薬として衣服を藍で染めていました。
徳行さんは「阿波藍」の産地として知られる徳島で、藍染の原料となるタデアイを栽培し、葉を乾燥、発酵させた藍染の原料「蒅(すくも)」を製造する「藍師」のもとで修業しました。壺草苑で行う藍染には、徳行さんの修業先である国選定文化財・阿波藍製造技術保持者である藍師の新居修さんがつくった貴重な蒅が使用されています。
灰汁発酵建ての藍染で使用されるのは、天然の原料のみ。大人1人がすっぽり入れる甕に蒅と木灰にお湯を混ぜたその上澄み液である灰汁を加え、ふすま(小麦の外皮)、石灰、日本酒などの原料を用いて藍液を発酵させ、朝晩と攪拌しながら「藍を建てる」作業を1週間から10日ほど行い、完成した液で布を染め上げていきます。繰り返し浸すことで、生地が徐々に深い藍色に染まっていきます。
工房内では、藍染職人の指導のもと、灰汁発酵建てによる染色体験ができます。ハンカチやバンダナの絞り染めが体験できる「おてがるコース」と、綿ストールやTシャツを染める「じっくりコース」のほか、持ち込みの衣類を染めるコースもあります。2時間ほどの体験時間で10回ほど浸すことができ、少しずつ生地の色合いが変化していく過程を楽しむことができます。でき上った藍染は、世界にひとつのお土産として持ち帰ることが可能です。
イギリス人の化学者アトキンソンは、天然藍の着物を着た人々が往来する江戸のまちを目にして、有名な「ジャパンブルー」という言葉を記しました。身に着けると心まで晴れわたるという天然藍。色彩豊かな江戸のまちを想像しながら、発酵の力強さと天然藍ならではの魅力を五感で感じてみてください。
部屋の間仕切りや日よけなどに用いられる簾(すだれ)。東京の伝統工芸品に指定されている「江戸簾」は、公家文化の影響を受けた華やかな京簾に対して、竹、ヨシ、ハギなどの天然素材の味わいを生かした素朴な風合いで、江戸庶民の暮らしを彩る調度品として親しまれていました。
軒先に吊るし、夏の日差しを柔らかく遮る「外掛すだれ」に、部屋の中と外を区切るための「内掛けすだれ」、和紙のかわりにすだれをはめこみ、夏障子ともいわれる「簾戸」など、いずれも機能的でありながら、天然素材ならではの美を感じさせます。涼しげな佇まいに加えて、簾越しに室内にできた陰影がゆらめくさまや、風にそよぐと波紋のように変化する簾の表情を眺めていると、江戸の人々の粋な夏の過ごし方を想像することができます。
田中製簾所は、東京都が認定する江戸簾唯一の伝統工芸士がいる工房です。五代目の田中耕太朗さんは大学助手を経て、家業を継いだ経歴の持ち主。子どものころから当たり前にあった江戸簾職人の家を外から眺めたうえで、自ら希望してこの道に入ったそう。父の義弘さんの仕事を見て習い、顧客に叱咤激励されながら、時代の変化に合わせて少しずつ変化してきたといいます。
江戸簾の主な原料は竹で、一定の長さに切り、汚れを落とし、繊維に沿って割り、削っていきます。削った1本1本の材料は、もとの竹の形と同じ配置に並べて編むため、削った順序でたばねる「手取り」が行われます。そうすることで、丈夫なだけでなく、竹の表面の自然な表情を簾に反映することができるのだそうです。材料を乾燥させた後は「編み」の作業で、「ケタ」と呼ばれる作業台に「投げ玉」と呼ばれる道具をくくり、重さを調整しながら1本ずつ編んでいきます。
田中製簾所では実際に編みの作業を体験し、オリジナルのコースターやランチョンマットをつくって持ち帰ることができます。コースターなら1時間ほどで完成。田中さんが丁寧に指導してくれるので、誰でもすぐにコツをつかむことができます。食卓にも涼を運んでくれる小物すだれは、きっとお気に入りの一品になるはずです。
見た目にも涼やかで、透き通るような音色のガラス風鈴は、夏を代表する風物詩のひとつ。風鈴の起源は、中国で吉凶を占うために使われた「占風鐸」にあるといわれていますが、現在見かけるガラス製の風鈴が登場したのは、江戸時代の享保年間(1700年頃)とされています。
江戸当時から約300年続く技法を受け継ぎ、東京で制作されているのが「江戸風鈴」です。特徴は、炉の中で溶かしたガラスを、型を使わずに空中で膨らませる「宙吹き(ちゅうぶき)」という技法で作られていること。また、音をよくするために、鳴り口の部分を砥石で削ってギザギザにし、耐久性を考えて内側から絵付けがされています。
江戸風鈴の工房は現在2軒のみで、御徒町駅の近くにある、日本で二番目に古いといわれる佐竹商店街にある「篠原まるよし風鈴」はそのうちの1軒です。こちらでは、江戸風鈴を実際に購入できるほか、制作体験もできます。制作体験では、江戸風鈴の内側から好きな絵を描く絵付けと、職人さんに手伝ってもらいながらガラスを宙吹きして膨らませるガラス吹きを実際に体験することができます。1時間から1時間半ほどで、形も色も音も、世界にひとつしかない風鈴の完成です。
江戸風鈴にはさまざまな大きさや形、絵柄のものがあり、同じものはありません。ひとつずつ聴き比べながら、ぜひお気に入りをみつけてください。江戸風鈴のほかに、江戸風鈴の技術を応用して造られたかわいらしいイヤリングやかんざしなどのアクセサリーや、「ポッペン」と呼ばれる、元旦の厄除けにも使われる音の出る工芸品などの商品もあり、お土産におすすめです。
江戸時代から現代まで受け継がれている江戸風鈴の技術をぜひ見て、聞いて、体験してみてください。暑い夏だからこそ、涼しい風の音色が聞こえてくるはずです。
住所 | 東京都青梅市長渕8-200 |
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アクセス | JR青梅線「青梅」駅より徒歩約25分(タクシー5分) |
URL | 壺草苑 |
住所 | 東京都台東区千束1-18-6 |
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アクセス | 東京メトロ日比谷線「入谷」駅より徒歩約7分、東京メトロ銀座線・都営浅草線、東武線、つくばエクスプレス「浅草」駅より徒歩約20分 |
URL | 田中製簾所 |
住所 | 東京都台東区台東4-25-10 |
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アクセス | 都営大江戸線・つくばエクスプレス「新御徒町」駅A2出口より徒歩1分、東京メトロ日比谷線「仲御徒町」駅・東京メトロ銀座線「稲荷町」駅より徒歩6分、JR山手線「御徒町」駅より徒歩8分 |
URL | 篠原まるよし風鈴 |
営業時間・定休日・料金等の最新情報については公式ウェブサイトでご確認ください。
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