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第59回 ミュージアムでお花見

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 桜の開花宣言が、ちらほら聞こえる季節になりました。日本人はこの時期、「お花見」を心待ちにしています。満開の桜は昔から人々の心をとらえてきたのです。今回は、館の内外で桜を楽しめるミュージアムを紹介します。

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中島千波《櫻雲の目黒川》2013年=郷さくら美術館

現代画家たちが向き合った桜

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直海かおり《悠》2017年=左、本多 翔《戸ノ内の大木》2017年=郷さくら美術館

 「桜」の名前を冠した美術館が、そぞろ歩きを楽しめる都内随一の名所目黒川のほとりにあります。2012年にオープンした現代日本画専門の「郷(さと)さくら美術館」です。黒いシックな外観の建物に入ると、大家による桜の大きな屏風絵に圧倒されます。
 桜が一年中見られる常設の桜百景展に加え、毎年3~5月にかけては桜花賞展が開催されます。これは気鋭の若手画家に、「桜」をテーマに50~80号(長辺サイズが約1~1・5メートル以上)の作品を依頼。入賞作品を選ぶ展覧会です。日本各地の美しい桜の風景を描いた画家たちの渾身の作品が、一堂に会します。
 弘前公園の外堀の水面をじゅうたんのように埋め尽くす桜の花筏、樹齢200年のたくましい幹を下から見上げたしだれ桜。田畑に立つ1本の桜と山里の春を見守る安達太良山(あだたらやま)……。それぞれの作品には作者のコメントも添えられています。
 「……爛漫の桜花の空隙にまみえた安達太良山の清らかさに、言葉を失いました。飛び交う鶯の声を聞きながら、土筆や蓬に囲まれて桜を描いている至福の時間に、心が浄化されていくようでした」「ひとりで遠出できない体になって数年になります。(略)私は人生の転機を寒さの中で決断してきました。そしてどんな時でも春はやって来ます」。
 桜と向き合う画家たち29人の率直な心情が、心に染み入ります。
 「桜は昔から日本人に親しまれてきました。現代の画家が描く構図や技法は定番もあれば、挑戦しているものもあります。どちらも、作者は自分の個性が出て心に訴えかける作品になるように尽くしています」と学芸員の依田恵さん。実は同館はこの全出品作品を買い上げるなど、育成支援にも力を入れています。
 また、来館者からの技法などに関する質問は画家に伝え、翌年の展示に生かします。同館のモットーである「やさしさ」は、見る人と画家をつなぐこうした工夫にも表れています。

6年ぶりの桜展も

 目黒川と並んで都内の人気スポットが、北の丸公園と千鳥ヶ淵です。満開の桜のトンネルが皇居のお堀を美しく彩ります。公園内にある東京国立近代美術館は、今年も「美術館の春まつり」を行います。MOMATコレクションでは川合玉堂の《行く春》や菊池芳文《小雨ふる吉野》など大作がお披露目されます。イベントの一環として、千鳥ヶ淵の桜の枝で染色したスカーフやハンカチも販売します。
 近くの明治通りに華やかな桜並木が続く恵比寿の山種美術館は、6年ぶりに狩野常信、上村松園、奥村土牛など江戸時代から近現代の名だたる日本画家による桜を主題とした企画展を開催します。
 桜の名所や桜を愛でる人々を描いた絵からは、画家たちの個性や美意識、また桜に対する思いにまで心を馳せることができるでしょう。夜桜コーナーの異なる風情も魅力を増します。

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千鳥ヶ淵の桜

江戸時代の花見気分を堪能

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ヤマザクラと花見弁当=北区飛鳥山博物館

 江戸時代に遡ると、上野と並ぶ二大花見名所が北区飛鳥山でした。「大声で騒ぐな」など制約が多かった上野に対して、飛鳥山は無礼講が許されました。歌舞音曲を聴きながらの酒盛り、仮装で身元を隠して飲めや歌えやと、庶民は日頃の憂さを晴らしました。
 北区飛鳥山博物館は、江戸時代のにぎわいを常設展で伝えています。パッと目に入るのがヤマザクラの木。その下にはお花見弁当。焼き飯、むつやひらめの刺身、わらびやタケノコの煮物、うぐいす餅など江戸時代のレシピを再現したおかずは、現代の弁当に負けずおいしそうです。お酒が加わると、さぞや楽しい一日だったことでしょう。
 8代将軍吉宗の御座所「金輪寺」も再現しています。飛鳥山に1300本もの桜を植えた吉宗は、この御座所から桜をめでました。
 

 将軍気分で座敷に座ると、花見を楽しむ人々の錦絵が見られます。卵焼き型のボタンを押すと、突如ザザーッと、錦絵の幕が開き、大きな画面が現れます。「名所の楽しみ」など飛鳥山の魅力を存分に楽しめます。ちなみに卵焼きボタンは、江戸時代から続く老舗「扇屋」の名物。粋な趣向に吉宗公も満足しているかもしれません。

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 日本人にとって、お花見は非日常を味わえる特別な空間です。それゆえに多くの画家たちも、お花見の風景を描きました。一枚一枚の作品は、見る人の大切な桜の思い出も呼び起こしてくれるかもしれません。

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御座所「金輪寺」と花見の浮世絵=北区飛鳥山博物館

更新日:2018年3月15日

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