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第57回 数寄者に学ぶ茶の湯

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 「作法が分からない」「正座ができない」などと、茶の湯に苦手意識を持つ日本人は少なくないかもしれません。でも、大切なのは先入観にとらわれずに楽しむこと。茶の湯体験は外国人にも人気です。
 今回は、茶の湯の雰囲気を感じられる美術館を紹介します。3館に共通するのは、創立者が数寄者と呼ばれた実業家であること。数寄者とは、明治時代以後の財界や政界の著名人で、茶の湯が趣味で道具も蒐集する人のことです。
 いずれも「おもてなし」といわれる茶の湯の精神が息づいています。美術館で知識を仕入れると、茶会も身近に感じられるかもしれません。

1801

お茶を点てる

ストライキが勃発! 茶会では…

1803

蹲踞と露地(畠山記念館)

 畠山記念館は、荏原製作所を創業した畠山一清(1881~1971。号は即翁)が集めた茶道具を中心に、東洋の古美術品を展示・公開しています。いつでも茶の湯を体験できる都内唯一の美術館で、畳に座って掛軸や花入を鑑賞しながら抹茶をいただけます。展示室には、蹲踞(つくばい※1)の露地もあり、茶室につながっています。
 まるで掛軸のように窓から見える庭のたたずまいも、四季折々、風情があります。「雪が降ったので来ました」というファンもいるそうです。
 

 さて、即翁が荏原製作所を創業して15年後、ストライキが起こります。ストライキの最中、30歳以上も年上の三井物産創業者の益田孝(1848~1938。号は鈍翁)から、即翁は茶会に誘われます。別れ際、「お茶でやる精神でやりたまえ」と一言。そのころ、茶の湯は財界人にとって親睦を深めるツールで、今でいうゴルフのような役割を果たしていました。
 鈍翁が、お茶はもちろん、床の軸や花、茶碗、釜などで心を尽くした時間は、即翁にとって何よりもの励ましに感じられたに違いありません。

1804

畠山一清

歳暮茶博士のおもてなし

1806

茶道具専用の展示室

1805

初代根津嘉一郎

 根津美術館は、「鉄道王」と呼ばれた東武鉄道の創業者、初代根津嘉一郎(1860~1940。号は青山(せいざん))の自邸があった南青山の敷地に立ちます。若いころから古美術が好きだった青山の蒐集ぶりは「豪快を極めた」と語り草になっており、国宝『蕪子花(かきつばた)図屏風』などを精力的に蒐集しました。
 お茶は50歳を過ぎてからで「歳暮茶博士」の異名も持ちました。一年の労をねぎらい、年始への期待を込めた歳暮の茶会を自邸で10回以上も行ったことによります。青山は1940年1月に亡くなりますが、その直前の年末にも、人の助けを借りながら歳暮の茶事を行いました。
 池もある広い園庭には、今も4つの茶室が点在。青山が茶人をもてなした面影が色濃く残ります。「NEZUCAFĒ」は緑の庭園に面した喫茶室で、抹茶と季節の生菓子のセットを味わえます。
 館内には「青山荘」という扁額(へんがく)のかかる茶道具専用の展示室があります。年7回の特別展、企画展とは別に、季節の茶道具の取り合わせを楽しむことができます。ここでは、待合の煙草盆、掛軸、そして茶室というように、茶事(※2)の流れに沿った展示がされています。茶室を再現した展示ケースは畳の高さが調整されており、あたかも茶室に座っているかのごとくお道具を眺められるのがポイントです。
 館内全ての解説に英語が併記されています。

あんちょこを見て点前に臨む

1809

中庭から見た五島美術館本館 photo by Shigeo Ogawa 

1808

「鼠志野茶碗 銘 峯紅葉」を手にする五島慶太 

 「点前が分からなくなると、懐に手を突っ込んでメモを取り出し、精読して茶を点てた」。あんちょこを見たエピソードを残すのが、東急電鉄の創業者、五島慶太(1882~1959。号は古経楼)です。古経楼も自邸の敷地に五島美術館を建設、残念ながら1960年の開館の前年に亡くなります。
 国宝『源氏物語絵巻』などが有名な五島美術館ですが、毎年12月~2月に、お茶に関する企画展を行っています。「器などの展示では、特徴を押さえながら懐石が盛り付けられたところを想像すると、より楽しく鑑賞できます」と、学芸員の砂澤(いさざわ)祐子さんに教えてもらいました。
 国分寺崖線の傾斜地に位置する庭は約2万平方メートルにも及び、2つの茶室や石塔や仏像もあり、冬の晴れた日は富士山が望めます。鑑賞の合間に散策するのも気持ちがいいです。茶室「冨士見亭」は、古経楼が即翁の茶室を参考に造りました。この時、すでに古経楼は足が悪く、椅子に腰かけた茶室を考えたのです。
 古経楼のように、作法が分からなければ調べる、あるいは人に聞く。正座ができなければ椅子でお茶を楽しむ――といった姿勢は、現代の私たちも大いに参考にしてよいのではないでしょうか。
 作法を伴う茶会は、経験者でも緊張するといいます。でも、お茶をいただくせっかくの時間です。おもてなしへの感謝の気持ちを相手に伝えるためにも、楽しみたいもの。一期一会にもきっとつながることでしょう。



(※1)茶室に入るために、手を清める手水鉢
(※2)炭点前・懐石→濃茶→薄茶という流れで約4時間にわたる茶会のフルコース

更新日:2018年1月24日

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