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第51回 美術館の新しい風

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 一般の市民が、学芸員と協働して活躍している美術館があります。今や、美術館に新しい風を起こす存在になりつつあります。今回はそんな人たちの活動にスポットを当てます。

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とびラーと子どもたちが対話をしながら作品鑑賞=東京都美術館

休館日の鑑賞会

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《ひまわり》フィンセント・ファン・ゴッホ=東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館

 「《ひまわり》を見てどう思う?」「絵全体が黄色い」「どうして黄色が多いのかな?」「明るく見せたいんじゃない」「なるほど。近くで見てみようか」(皆で絵の近くに移動)「立体感がある!」「ひまわりのしなびれた様子がよく描けている」「絵がでこぼこしている」……。
 6月19日(月)、休館日の東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館に、新宿区立の小学5年生35人がやってきました。対話による美術鑑賞の授業です。子どもたちと鑑賞するのは、ボランティアガイドの皆さん。児童5~6人に1人のガイドが付き、冒頭のような問いかけをしながら館内を回ります。
 ガイドは前週に学校へ行き、事前授業でアートカードという作品カードを使って、児童たちの興味や好奇心を高めた上で、実際に本物の作品に触れてもらいます。▽本物の作品を見て感じたことを言葉にする▽他者の考えを聞いていろいろな見方を知る▽作品を描いた作者に関心を持ち、共感の気持ちが芽生える――美術鑑賞教育の狙いはここにあります。
 損保ジャパン日本興亜美術館は10年間にわたって、区内の小中学生延べ約15,700人を受け入れてきました。「絵の中に入った気持ちになると、空気が綺麗な感じがしたり、あったかそうに感じた」という感想を寄せた子もいます。先生からは「ガイドさんが丁寧に子どもの発言を引き出してくれ、対話ができている」と好評です。
 現在は約70人のガイドが活動。小中学校の受け入れ経験をもとに、大人も参加可能な対話による鑑賞会に発展させるなど、同館の教育普及のプログラムに欠かせない存在です。

市民が創造的に関わる場

 ボランティアでなく、主体的に活動するプレーヤーという位置づけが、東京都美術館のアート・コミュニケータ「とびラー」です。2012年の館のリニューアルオープン時に、アート・コミュニケーションという新しい活動を始めるにあたって、都美術館と東京藝術大学が連携して、アートを介してコミュニティを育む「とびらプロジェクト」を始めました。18歳以上の社会人、主婦、学生など約120人のとびラーが、人と作品、人と人、人と場所をつなげる活動を活発に行っています。ヨリミチ・ビジュツカン、若冲ラウンジ、筆談deアート、ベビーカーツアー……。昨年度だけでとびラーが主体的に関わるプログラムが123回も行われました。
 とびラーが発案するプログラムは、とびラーが「とびラボ」と言われるチームを作り、ゼロから対話して企画を練っていきます。学芸員や大学の教員とも相談してブラッシュアップし、トライアルも経て実施します。たとえば耳の聞こえない方と作品を鑑賞するワークショップでは、聞こえる人と聞こえない人が一緒に作品を鑑賞するためにどうするか。▽作品を鑑賞して感じたことを声のコミュニケーションではなく香りを選ぶことで表現する▽ボードを使って絵で筆談する――など新しいアイデアを交換して実現化します。
 とびラーの活動は、美術館が学芸員や芸術家だけが関わる場でなく、市民も対等に創造的に関われる実例を生み出しています。 

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耳の聞こえない人と聞こえる人が共に作品を鑑賞する「アートde筆談」=東京都美術館

新しい価値観を生み出す

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台湾をルーツに持つ子どもたちと上野を巡る「ミュージアム・トリップ」=東京都美術館

 「筆談とジェスチャーで、自分の想い、気持ちを思い切りぶつけられた。言葉以上のイメージが出てきたのには自分でもびっくり」(アートde筆談の参加者)、「今まで展覧会にしか興味を持っておらず、建築の知識もなかったので、説明していただいたこと全てが面白かった。ライトアップされた風景が美しかった」(トビカン・ヤカン・カイカン・ツアーの参加者)……。プログラム参加者の感想からも、美術館は単に作品を鑑賞する場にとどまらず、コミュニケーションを発展させることで、新しい価値観を生み出す場になっていることが分かります。
 とびラーには韓国や中国、台湾国籍の人もいます。昨年は、台湾出身のとびラーが中心になって、台湾にルーツを持つ日本に住む子どもたちが美術館と上野公園を楽しむプログラム「ミュージアム・トリップ」を行いました。とびラーが企画する恒例のプログラムに、日本語が母語でない人も参加できるような英語での対応も検討中です。
 東京都美術館のように市民と大学と美術館が3者でコラボしている例はまだ少なく、国内からだけでなく、海外からの視察も絶えません。

 最後に、3年の任期を終えたとびラーはどうしているのでしょうか。児童養護施設の子どもたちとミュージアムを楽しむ企画を行う任意団体や、「ヨリミチ・ミュージアム」という大人向けのプログラムを実施する団体を作って様々な美術館や博物館でも活動をしています。新しい風はどんどん広がっていくことでしょう。

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ライトアップされた東京都美術館=トビカン・ヤカン・カイカンツアー

更新日:2017年7月13日

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